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江戸小紋博物館(大松染工場)

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中條 隆一 さん (現代の名工)
インタビュー
中條 隆一 さん (現代の名工) ナカジョウ リュウイチ
RYUICHI NAKAZYO
江戸小紋博物館(大松染工場)
生年月日:1941年1月29日
出身地:東京都
血液型:B型
趣味・特技:油絵
好きな映画:西部劇、黄色いリボン、韓国時代劇[朱蒙(チュモン)]
好きな言葉・座右の銘:かたつむり そろそろのぼる 不士の山/先代:中條福松氏の言葉
好きな場所・観光地:熊谷市(家があるので、月に数回、庭木・土とたわむれてのんびり過ごします)、美術館、博物館
江戸小紋博物館(大松染工場)詳細情報はこちら
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■中條さんがこの世界に入ったきっかけをお聞かせ下さい。
小さい頃は今の向島に住んでいたんですが、先代(父:福松氏)はこの地(墨田区八広)に染工場を開いたのでよくこちらに遊びに来ていました。住まいよりも工場の方が大きいし、七面鳥やアヒル、鶏、ガチョウ、犬、錦鯉なども飼っていましたから、こっちが楽しくてね。それで自然と足が向いちゃうんですよ。工場に来れば職人さんも可愛がってくれましてね。私は「隆ちゃん」なんて呼ばれてまして、「仕事が終わったら映画に連れて行ってやるよ」とか「お菓子あるぞ」「お昼食べてきな」なんて遊んでもらえるのがまた嬉しくて(笑)。それで工場に自然と入ってしまったんです。
先代には跡継ぎのことや、修業のことなんて言われたことはなかったけど、高等学校時代から配達などの手伝いもしていたので、本当に迷いもなかったですね。

中條 隆一 さん (現代の名工) 中條 隆一 さん (現代の名工)

■二代目として始まった修業、そして経営者としてのスタートはどのようなものでしたか?
高校卒業後に大松染工場に入社しましたが、並行して大学にも通わせてもらいました。大学では染料化学について勉強しましたが、今思い返しても、自由にやらせてもらって良かったと思いますよ。先代は親方としてだけでなく経営者としても忙しかったので、修業という修業は職人さんたちの技を見て覚えたようなものでした。ただ、先代は腕の良い職人でしたから、チャンスを見つけては先代の動きを目に焼きつけるようにしましたね。全作業の工程も把握して、「型付け」の作業も出来るようになると、色々な柄を作るのが面白くてね。すっかり夢中になりました。
お客さんの生地・柄・色・加工方法などの好みに応じて染めることを「誂え染め」というんですが、色見本や柄見本から選択してもらうため、私たちは京染め屋さんに置いてもらう図柄の見本を作る作業をするんです。「見本作り」というんですが、この見本次第では京染め屋さんから注文をもらえなくなるから一大事なんですよ。親方の仕事として一番大切な作業なんですが、修業5年目で10種類の見本中、8本を任せてもらった時は「さぁ、どんな柄にしようか」と、楽しくて仕方なかったですね。(※大松染工場では現在は誂え染めを止めています)
生活が変わってしまったのは25歳の時ですね。先代が57歳という若さで亡くなった時はこれからどうしようかと思いましたよ。職人として修業していたのに、親方として、経営者としてもやって行かなくちゃならない、社員も抱えているんだから何とかしなくちゃって、それはもう大変なものでした。
周りの職人さんに支えてもらい、無事に代替わりができてからは社員の福利厚生や設備投資に一層力を注いで今までやってきました。でも、私は今70歳(2011.1現在)ですが、57で亡くなった先代にはまだまだ及びません。人間的にも風格もまだまだ父の所にまで行けませんね。今でも先代の法事となると全国から弟子が集まるんですが、弟子を、社員を守るという意識が強い人だったから、こんなに慕われているんだなぁと有り難く思います。

■正絹以外のものを染める技術革新についてのお話をお聞かせ下さい。
中條 隆一 さん (現代の名工)早くに父を亡くした私を、問屋さんが色々と導いて下さったんですよ。私は仕事のことで「申し訳ない、出来ません」なんて言うのは嫌だったから「何とかやってみましょう」と、何でも引き受けてきました。その中に「こんなのにも染められる?」という話があったんです。木綿、ポリエステル、アセテート、革、木など色々なものを染めましたね。本当に試行錯誤の連続でした。でも「染めてやるぞ」という気持ちでね、取り組んできたんですよ。昭和40年代の終わりにアセテート(化合繊)の染めに取り組んだ時は、不上がりが出て、不上がりが出て「大松、大丈夫か?」「あんなに不上がり出しちゃ、音を上げるんじゃないか」と周りで言われていたぐらい(笑)。それでも、止めようなんてこれっぽっちも思いませんでした。あとは、大学で染料化学を学ばせてもらったという自信も「できないことはない」と思わせたのかもしれません。中でも一番苦労したのは、ポリエステル50%と綿50%の混紡でしたね。とにかく大変な作業で、うちのような零細企業でこんな染めをするところは他にないと思いますよ。成功するまでには100反、200反という大変な不上がりが出ましたが、こんな経験も経たから、うちの染色技術は一番だと自信を持てるんです。

■現代の名工、中條さんの跡を継ぐ三代目、康隆さんをご紹介下さい。
修業を始めて10年ちょっとですが、まだまだですね。この商売で経営者になるには、肩書きをつけただけでは駄目なんです。色合わせから、型付け、しごき、蒸し、水洗、乾燥と、作業の工程を極めるだけでなく、柄が作れないと始まりません。それに、うちの商売は作業日が雨か、晴れか、という天候や湿度にも左右されるし、本当に微妙な違いが作品に影響するんです。不上がりは仕方がないにしても、そんな微妙な差が起こってしまうこと肝に銘じて作ることができるようになるには、やはり20年はかかりますね。ただ、京都の呉服問屋さんで修業させていたせいか、「ものづくり」はできるんです。今の若い職人さんは「ものづくり」がなかなかできないものですから、これは大したものですね。
東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞(平成23年度)では、ウール生地に江戸小紋染めを施した両面染めのジャケットを出品し、優秀賞に選ばれたんですよ。よく「名工のDNAが」なんて言われますが、全て子どもが努力した結果だと思っています。
後継ぎがいなくてたたんでしまう工場も多い中、引き継いでくれるのは本当に有り難いですよ。ただ、奥の深い商売で同じ人が同じことをやっても不上がりが出る、大量生産も出来ない厳しい世界でもあります。「伝統を受け継ぐ」とは言われますが、この仕事が好きで続けてくれれば一番良いですね。

■最後に地域の皆様にメッセージをお願い致します。
機械化、機械化と言われますが、手仕事の良さは我々職人が一番良く解かっていると思うんです。手仕事の「勘」は精密な機械を越える優秀さがあります。これからは色々な分野の職人さんの技術を、皆さんに知って頂きたいですし、職人技の良さを感じて欲しいですね。
手作りの良さは「均一のものができない」ということだと思います。素人目では解からないものでも、職人が見ればわかる不完全・不完成な部分が作品の「あじ」なんですよ。我々「なっ染」業であれば、1つの作品のうち2割の部分が「あじ」なんです。その2割があることで作品全体に良さが出るんですよ。
なっ染業も含め、伝統工芸の職人には色々な商売がありますが、どれもその人の、職人さんの感性を活かせる良さがある商売です。これからは職人になる若い人が増えてくると思いますが、厳しい世界であることも覚悟して頑張って欲しいですね。
私のところには20代・30代の若い職人さんが多くいます。飛び込むのも良いと思うけど、正直厳しい業界です。50代、60代と一生の仕事としてやっていけるかは未知数ですが、長く続けられるように見守りたいですし、子どもたちの将来を考えて厳しく指導するところは指導し、伝達できる業を伝えて行きたいですね。

※上記記事は2012.2に取材したものです。
情報時間の経過による変化などがございます事をご了承ください。

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